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October 21, 2005

ちかはキーボードを叩き【1】

僕はバンドを組んでいた。
ボーカル、ギター、ベース、ドラム、アルトサックス、
テナーサックス、トランペット、トロンボーン、キーボード
の計9人編成のバンドだ。
キーボードを担当していたのがちかだった。
僕はギターを担当していて、ちかとは仲が良かったんだ。
今から話す物語は、僕というよりは、ちかの物語だ。

もともと、アルトサックスのゆうじが呼びかけて結成されたバンドだった。
ほとんどのメンバーは京大の学生で、キーボードのちかと、
トランペットのあゆみだけが京都女子大の学生だった。
ちかとあゆみをバンドに誘ったのも、アルトサックスのゆうじだったんだ。

バンドはなかなか発進しなかった。
だって、9人もメンバーがいるものだから、練習するだけでも大変だったからだ。
特に、ドラムの久本は練習に来なかった。
だって、久本はバンド結成直後にドイツに留学してしまったからだ。
僕らのバンドは散々な船出を経験したんだ。

でも、ちかとあゆみだけは、練習に皆勤していた。
僕にはわかっていたんだ。
ちかはアルトサックスのゆうじのことが大好きで、
あゆみは僕のことが大好きだということが。
だから、二人は休むことなく練習に参加していたんだ。
全員が初心者で、碌に音も出ない練習に、
飽きずに参加していたんだ。

ちかがゆうじのことを見るときの眼は潤んでいた。
あゆみは露骨に僕を誘惑してきた。
問題だったのは、ゆうじにも、僕にも彼女がいたことだ。
つまり、ちかとあゆみの恋は、もともと実るはずがなかったんだ。
ちかとあゆみは、それを知っていてもなお、恋をやめなかった。
第一、恋なんてやめられるものじゃないんだ。

結成して3ヶ月ほど経つと、全員が何とか音を出せるようになっていたんだ。
全員が一斉に演奏をすると、それはもう不協和音に他ならなかった。
だけれども、全員で一つの音を出している喜びは感じることができた。
ちかも、あゆみも、ゆうじもみんな汗を流しながら練習していたんだ。

あゆみは僕に告白してきてくれた。
もちろん、僕は断ったよ。断るしかなかったんだ。
このせいで、バンドが終わってしまわないか心配だった。
だけれども、あゆみは恋でバンドを壊そうとはしなかった。
変わらず友達でいてほしいと言ってくれた。
僕はもちろん、笑顔で、顔を縦に振った。

だけれども、僕の危惧は近いうちに現実となってしまったんだ。
あれは7月のはじめだったと思う。
僕らは、一度もステージにあがることなく、バンドを解消した。
原因は、ちかとゆうじの恋だった。
その恋は深く、深く、あまりに深すぎたが故に、
何もかもを巻き込んで、すべての状況を一変させてしまったんだ。

投稿者 loveforever : 02:36 AM | コメント (0)